【 ニュースへのコメント 】 まちづくりや交通政策に関するニュースにちょっとチャチャ入れ

「自転車推奨ルート」の整備 2015/04/23

 

 東京都は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会会場や主要な観光地の周辺において、自転車がより安全に回遊できるよう、国道、都道、区市道等の自転車が走行しやすい空間を連続させ、ネットワーク化を図る自転車推奨ルートを設定し、国や区市等と整備に取り組んでいくこととしましたので、お知らせします。
  これまで東京都は、都道や臨港道路における自転車走行空間の整備を進めてきましたが、この取組に加え、2020年大会開催までに自転車推奨ルートを整備することにより、約400キロメートルの自転車が走行しやすい空間を確保し、歩行者、自転車、自動車がともに安全で安心して通行できる道路空間を創出していきます。

平成27年4月17日建設局

 

 このニュースは新聞などの活字メディアでは報道されていませんが、国道、都道、区道などの管轄の違いで連続性が保ちにくかった自転車レーンの整備を、都が中心となって「自転車推奨ルート」を設定し、管轄の区別なく整備していくという方法で、これはすべての道路に自転車レーンを設定することはもちろん無理で、地価が高くレーンの確保も難しい都心部では有効な方法になりそうです。

 

 地方都市の場合も、大まかな推奨ルートを高校生の通学の軸線に沿って市内に何本か設定し、整備を優先させるとうまくいくのではないかと考えています。

 

<交通事故>軽乗用車とバイク衝突 4人死亡 群馬・太田
毎日新聞 5月29日(日)11時58分配信

 29日午前8時35分ごろ、群馬県太田市吉沢町の国道50号で、交差点を右折中の軽乗用車と、直進してきた大型バイクが衝突し、軽乗用車とバイク両方が全焼した。太田署によると、軽乗用車内から3人の遺体が見つかった。大型バイクを運転していた栃木県足利市鹿島町の会社員、小宮治幸さん(49)は搬送先の太田市内の病院で死亡が確認された。軽乗用車の3人は太田市に住む10、30、60代の女性とみて身元を調べている。現場は信号のない十字路交差点だった。【山本有紀】

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160529-00000016-mai-soci

 

 事故の現場は国道50号の片側二車線のバイパスが農地の中を通る地域ですが、おそらくバイパス建設前までつながっていた農地を利用する農耕車の横断のために、中央分離帯を切ってあるのだと思われますが、ここで右折しようとした乗用車と直進のバイクとの事故のようです。

 

 

 農地の中にバイパスを通す場合には、必ず問題になりそうですが、農耕車の横断の便を図ったとしても、高速で流れるバイパスを農耕車で渡るのは命がけですから、ここはむしろ農道への一般車両の流入を禁止しつつ、農耕車に限って横断を認めて、安全を保つために押しボタン式信号を設け、バイパスを通る自転車も、この農道を通るようにすることを提案しています。

図4・23 バイパスに沿った農道の整備(p242)
図4・23 バイパスに沿った農道の整備(p242)

 そこで、一般のバイパス道路を作るのと同時に沿線に農道を整備することで、ほぼ自動車専用道の状態を実現し、将来的にも機能が保たれる方法を示したのが、図4・23になります。これはバイパスに沿って3~4mほどの幅の農道を整備し、車道との間を完全に仕切ってしまうもので、1キロにつき1~2箇所は、図のような押しボタン式信号を設置した農耕車用の横断帯を設ければ、農耕車の横断は多くても1時間に数台程度でしょうから、農作業の安全を保ちつつも、限りなく自動車専用道に近い状態を保つことは可能であると考えられます。
 これによって、市街化は抑制されるため、仮に交通需要が増加した場合の拡幅も容易なものになります。(4-4-3:専用道に準じた道路/バイパス沿いの農道と農耕車用横断帯:p243)

 

 バイパスに沿って移動する自転車や歩行者は少ないと思いますが、この農道を通るようにすれば、バイパスには歩道の建設が不要なので、同じ建設費でこの農道を建設することができ、車道の方は専用道に近い状態を保つことができます。

 

英国 ストラットフォード・アポン・エイヴォン (本書p81)
英国 ストラットフォード・アポン・エイヴォン (本書p81)

かすむ横断歩道 県内9500カ所 死亡事故現場も 縦割りに対応苦慮 2016/03/19
(カナロコ by 神奈川新聞 3月19日(土)11時17分配信)

 

厚木市内でも散見される、消えかけた横断歩道
 厚木市下依知で下校途中の女子児童が車にはねられて死亡した事故から1カ月余。事故との直接の関係は不明ながら、地元では現場の横断歩道が消えかかっていた問題がクローズアップされている。同様な横断歩道は近年、県内各地で顕在化。事故を契機に改善策を模索する動きも出てきた。
  事故は2月9日夕、市立小学校近くの市道で発生した。現場は交通量の多い国道129号から住宅地に入る生活道路で、信号機はないが見通しは悪くはない。横断歩道の手前に街区公園があり、女子児童は公園方向から横断歩道を渡っているときに「漫然と運転」(運転者の供述)していた車にはねられた。
  「現場の横断歩道は事故後数日で塗り直された。通学路でもあり、以前から地元では問題視、改善を要望していたので複雑な思いだ」。2月29日の厚木市議会第1回会議の一般質問で石井芳隆市議が取り上げた。
(後略)

 

 対面通行の信号のない横断歩道で小学生の女の子がクルマに轢かれて亡くなった事故を機に、すり減って見えにくくなった横断歩道の白線に予算を付ける課題が問題になっていますが、本来ならば信号のない横断歩道の効果や問題点に関しても大いに論ずる必要があります。
 これが、一方通行システムを全面的に導入できれば、横断歩道は自動車に確実に停まってもらえる場所になります。
 英国では、対面通行の道路にも中央にまめに中央島を設置することによって、実質一方通行と同じように安全性を高めていますし、横断歩道にぼんぼりが点滅しているところでは自動車は停止する義務があるなど、信号に依らずに歩行者が安全に渡れるようにする工夫が半世紀も前から確立しています。
 さらには、写真のように、ゼブラなしに簡単な中央島だけを設けて、自動車優先ながら、横断者の安全も守る工夫がなされているところもあります。

 

興津宿清見寺
興津宿清見寺

JR東海道線、11日ぶりダイヤ正常化 由比―興津運転再開 2014/10/19

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141016-00000033-at_s-l22

 東海道由比宿と興津宿の間の海岸は、中世の「海道記」や「東関紀行」などの時代には「岫崎(くきがさき)」と呼ばれ、崖が迫る狭い磯浜を干潮の時間を選んで波の引いた間に急いで通り過ぎるような難所で、後には薩埵峠を越える山道が開かれて太平記の時代からはこちらが本道になりますが、戊辰戦争の際に、慶喜恭順の意を伝えるために、西軍が押し寄せる中を駿府へ向かった山岡鉄舟も、西軍の兵が充満する薩埵峠だけは抜けることが出来ずに漁師に扮して船で清水の次郎長の元へ向かったといわれるような東西交通の隘路であったようです。
 平安時代に今の興津の清見寺(せいけんじ)のところに清見関(きよみがせき)という関所が置かれたのもこの地形と関係しているようで、それでも、遠く三保の松原を望む清見潟は絶景として知られ、東海道本線の建設の際には、興津宿では街道の山側の屋敷の後ろの方を割いて鉄道に譲り、清見寺は山門から本堂へ登るのに鉄道を越えることになり、宅地も鉄道で分断されるような不便を忍んで、清見潟の景観を守ることを選択したそうで、西園寺公望もこの景観と温暖な気候を気に入って坐漁荘という別荘を営み暮らします。

 

 そうした苦心の跡も、戦後のモータリゼーションの波に飲み込まれると保てなくなり、清見潟は埋め立てられ、国道のバイパスと高速道路だけが見える風景に置き換えられましたが、バイパスができるまでは東海道の道筋に東西の自動車交通が集中し、お向かいのお家へ行くのにも命懸けという時代がありましたから、絶景も住民の命には代えられないということになります。

 

 新幹線ならずとも線形の良い新線の建設で減速区間を減らすことは可能で、狭隘な斜面に沿って鉄道を敷設するしかなかった時代とは異なり、今日ではトンネルで直線的に抜けることは容易になり、適切なルートをとる限りは環境への影響も小さく、また雪国での維持管理の負担が減り、安全性は向上する要素が大きいと考えられます。(本書p350)

 

 現代ではトンネルの掘削技術も格段に向上しましたが、むしろ公共事業が減少して持て余し気味で東京の地下に屋上屋を架すようにさまざまなトンネルが造られているようですから、たとえば由比と興津の間の狭隘な部分をトンネルにして、今回のような山崩れのリスクを回避するような方向に新幹線からの莫大な上がりを投入してもよかったのではないかと思いますし、自動車の方も山の上やトンネルで抜けるルートを築いて、町や海岸や景観を復活させるという方向に使っても惜しくはないように思われます。

 

高速料金、簡素化を検討 2013/6/9

 

 いわゆる「高速道路」に関しては、生活や産業の便に資することや、一般道の走行に伴う外部不経済の低減を目的とした公共財の面と、普通列車に対する特急列車のようなオプションとしての面とがあり、公共交通が発達して旅客の移動に関しては不便が少ない大都市圏ではオプションとしての意味が重要で、これに対して、地方の場合は公共財として活用されることが、経済的にも生活の質の面でも必要なことになり、結論としては、プール制を理由に均一料金にこだわる現在のやり方を廃して、オプション価値と公共財としての利用価値を勘案して、キメの細かい料金設定をしていく方が合理的であると言えます。

 

 代替路線とのバランス
  例えば、東名高速と中央高速は、どちらも東京と名古屋を結んでいて、・・・中央道は、少し距離が長いことや山間部を通る・・・交通量は小さい・・・そこで、東名高速の料金を据え置いて、中央道の方を安く設定すれば・・・中央道というインフラが有効に活用されて、全体としては収入が増加する可能性もあり、これも、オプション価値に合わせた料金体系の一形態・・・
 また、ひとつの路線でも、長大橋や長大トンネルのように、交通の隘路を一本で賄うような場合には割高にし、平野部で他の路線も多いようなケースでは割安にすることも有効で、それぞれの区間ごとにきめ細かく料金設定を行うことや、そのための基準を作ることは難しいことではない・・・

 

 ガソリン価格とのバランス
 イタリアの高速道路は、ローマやミラノの環状線など、技術的ないしは政策的な理由で無料にしている道路と、都市間を結ぶ有料の高速道路があり、有料とはいえ料金は日本の高速道路の3分の1以下で、普通車と大型車との料金の格差も日本よりは小さい・・・加えて、イタリアの場合は燃料費も西欧並みの価格であるため、高速道路の利用料金はさらに割安なイメージがあります。

(本書 p189)

 

 高速道路が原則無料の英国でも、河口のエスチュアリを渡る長大橋のセヴァーン橋などは有料で(往復で3千円ほどかかるので、ウェールズには行き損ねたままです)、スコットランドのフォース橋などは、時間帯によって料金が変わるシステムが検討されたりと、橋の劣化を防止するための交通量の抑制や、オプション価値に応じた料金システムは先進国では常識になっています。

 

 これに対して、2年前の夏にこんな記事があり(詳細は「ニュースへのコメント」の当該欄を参照方)、どういう訳か国土交通省が「均一」の方向へ進もうとしていることが分かりました。

 

 割高の高速料金下げ=関越トンネルなど6区間-国交省
 国土交通省は15日、割高な通行料金が設定されている関越自動車道の関越トンネルなど高速道路の6区間について、一般高速並みの料金に引き下げると発表した。8月1日から2013年度末まで実施する。
 対象区間は、関越トンネルのほか中央道の恵那山トンネル、東海北陸道の飛騨トンネル、阪和道の海南インターチェンジ(IC)-有田IC間、広島岩国道路の廿日市IC-大竹ジャンクション間、関門道の関門橋。(2011/07/15-21:15時事)

 

そうして、それから2年が経って、よくお邪魔するサイトでこういう話を目にしました。

 

 高速料金、簡素化を検討 海峡・大都市・普通の3区分へ(朝日新聞デジタル)

 国土交通省は10日、来年4月から見直す全国の高速道路の料金について、三つの区分に集約をめざす考えを明らかにした。今は道路の区間によって10種類あるが、「海峡区間」「大都市区間」「普通区間」の三つに簡素化する。料金制度を議論する有識者会議に案として示した。
 高速道路の料金は1キロあたりの料金水準が決まっており、利用者が実際に払う額は走行距離に応じて決まる。ただ、建設費が巨額になったアクアラインなどの海を渡る区間やトンネル部分などは、建設費を回収するために料金も高くしている。全国の道路で10種類の料金区分があり、複雑でわかりにくいとの指摘が出ていた。
 実際に変更後の料金水準をいくらにするかは、今後詰める。http://www.asahi.com/politics/update/0511/TKY201305100853.html

 

 このニュースは、朝日新聞デジタルのみの配信で、さらにはこの先を読むのは有料であるため、ことの詳細は不明ですが、実際にはきめ細かく設定したところで複雑でわかりにくいことはないにも関わらず、ともかく「均一」に向けて有識者会議を誘導しようとするのが省の方針であることだけはわかります。

 

 それよりも、こちらの方が大変に面白いアイデアを紹介していて、当たり前のように徴収されるターミナルチャージの150円を廃止して、長距離を乗り通しても、途中下車しても同じ「区間料金」にすることで、途中の地域でも宿泊や観光が促進されるというもので、確かにETCの普及によって料金収受の人件費コストは非常に小さくなっているので、少なくともETCに限りターミナルチャージ廃止というのは十分に可能で、かつ、ガソリンスタンドやサービスエリアの渋滞等を気にすることも減り、通過されるだけであった地域の民間業者にも「途中下車」によってお金を落とすことができるようになります。

ガソリン税と高速料金の改革例
ガソリン税と高速料金の改革例

 猪瀬直樹氏の「日本国の研究」によると、当時の道路公団本体は収支がトントンであっても、天下り先でパーキングエリアを民間に貸し出す業務だけを行う関連会社が大きな経常利益を挙げているそうで、そろそろそういう儲け方は諦めて、社会資本として有効利用できる方策が望まれる段階だと考えるのですが。

 

 ためしに、ガソリン税が20円だけ引き上げられて、それを原資として高速料金が3分の1程度、さらにはETC利用者はターミナルチャージ廃止とし、途中の100キロ間を高速利用した場合の費用の総額を計算すると、右のグラフのようにおおむね欧州並みで済むことになりますから、国民の多くが受け入れられる政策になるはずです。

 

割高の高速料金下げ=関越トンネルなど6区間-国交省  2011/7/16


 国土交通省は15日、割高な通行料金が設定されている関越自動車道の関越トンネルなど高速道路の6区間について、一般高速並みの料金に引き下げると発表した。8月1日から2013年度末まで実施する。
 対象区間は、関越トンネルのほか中央道の恵那山トンネル、東海北陸道の飛騨トンネル、阪和道の海南インターチェンジ(IC)-有田IC間、広島岩国道路の廿日市IC-大竹ジャンクション間、関門道の関門橋。(2011/07/15-21:15時事)

 

 世間では、高速道路の意味が不明確のまま「高速道路なんだから○○にすべきだ」という意見が流布されていますが、オプションとしての有料道路と考えると、関越トンネルや関門橋のようにオプション価値も建設費も高い区間を割高にするのはむしろ合理的で、利用者を納得させることは容易です。

 そもそもプール制だからと言って均一料金である必然性はなく、ここはむしろ、地方の路線を割安にしてオプション価値に即した料金体系にすることで、全体として高速道路が担う役割を拡大し、一般道利用に伴う外部不経済を低下させ、かつ今よりも高い収入が確保できるように、きめ細かく路線ごとの料金を設定することは可能です(本書 p189)

 国土交通省にはそういう差配や計算が得意な人も多いはずなのですが。

 

亀岡市の交通事故  2012/4/28

 

「登校児童の列に少年の車、2人死亡・2人重体」
 23日午前7時55分頃、京都府亀岡市篠町の府道(幅6・5メートル)で、集団登校中の市立安詳(あんしょう)小学校の1~5年生9人と児童の母親(26)の計10人の列に、無免許の少年(18)(亀岡市)が運転する軽乗用車が突っ込んだ。
 児童の母親と2年生の女児(7)の2人が死亡。母親は妊娠7か月で、おなかの子も助からなかった。このほか、児童2人が意識不明の重体、6人が重軽傷を負った。
 府警亀岡署は、少年を自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕し、同致死傷容疑に切り替えた。現場にブレーキ痕がなく、少年は調べに対し、「居眠りをしていた。一晩中、亀岡市内や京都市内を走っていた。当たったことは間違いありません」と供述しているという。
 また、同署は無免許を知りながら運転させていたとして、同乗していた友人で大学1年の男子学生(18)(京都府南丹市)と、専門学校生の少年(18)(亀岡市)を道交法違反(無免許運転)のほう助容疑で逮捕した。
(2012年4月23日20時39分  読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120423-OYT1T00238.htm

 


 似たような事故は後を絶たず、多くが若い運転者によるものだと言われますが、若いうちは宵っ張りの朝寝坊で朝は仕事に遅刻しないように無理をするケースも多く、同じ悲劇を繰り返さない意志がある限り、社会の問題として議論をする必要があります。

 

 近年、飲酒運転による事故がマスコミで盛んに取り上げられるようになり、取締りの強化や厳罰化などの施策が打ち出されていますが、西欧諸国との比較で考えると少し論点がずれているようにも見えます。実のところ、西欧では飲酒運転そのものにはある程度の許容値がある国が多く、これは、飲酒の文化の違いから、抑制が利いていることもあると思われますが、道路の構造の違いも重要です。
 現状の日本の道路は、運転者が酔っていなくても、ちょっとうっかりしただけでも無辜の歩行者が大勢死んでしまう道路構造の箇所が多いため、田舎の方では、飲んだ本人が無事に家まで帰りつくことだけを目的とする限り、歩いて帰るよりは運転して帰った方が安全なケースも多いようです。もし、どのような形であれ生き残ることを勝利と看做し、死を以って敗残とする考え方があれば、はねた側もはねられた側も飲んだ帰りという死亡事故なら、真面目に歩いて帰ったことは敗北につながり、違反を承知で運転した側の勝利に終わったことになり、現在の日本の道路構造はそういう宿命をわれわれに投げかけるものになっています。
 無辜の被害者の生命と、生命を軽んじがちで罪のある加害者の生命とではその軽重に差があるという考え方はそれなりに理解されるものとして、もし真面目な歩行者の側が無傷で運転した側が死ぬようならば自業自得と納得することもでき、できれば加害者の側も重傷を負っても命だけは助かる、さらには大きな怪我はないもののクルマがオシャカになった上に矯正プログラムでしばらく反省させる、という方が良い社会のシステムであると言えます。(本書第三章の冒頭:p64)

 

 この箇所については、都会人はせずに済む「飲酒運転」を徹底的に叩くのが現代の「風潮」ですが、そうした風潮に逆らうから不遜だと批判を寄せた人がいて、一方では、この部分は良い表現だ、と褒めてくれる人もいましたから、それなりに微妙な問題なのだとは思いますが、

 

 ここでは、飲酒運転の取締りや厳罰化に関しては特にこれを批判するものではありませんが、同時に社会の側では、無謀な運転があっても他人の命を奪うことなく運転者が反省するような方策、さらには、初めから無謀な運転を思いとどまるような方策を考える必要があり、それも現状の道路スペースを再配置することで、少ない予算で迅速に効果の上がる方法を考えていくことにします。(本書 p64)

 

という方向性については異存のある人は少ないはずで、ただそれでも大きな事故でも起きない限りはなかなか議論が進まないのが現状であると思われます。

亀岡市西門付近の山陰道
亀岡市西門付近の山陰道

 亀岡の事故の現場を地図で見ると、京都から丹波亀山へ向かう丹波路(山陰道)の旧街道のようで、京都丹波口から老ノ坂を越えて丹波国に入った最初の村が篠村で、ここは足利尊氏が討幕に旗揚げした地でもあるそうですが、ここから亀山城下(今の亀岡)まではおおむね町続きで、テレビの画像を見ても旅人や商人で賑わった往時を偲ばせる街道筋らしい家並みが続いていました。
 この街道は、国道9号バイパスができると府道402号になり、さらには並行して京都縦貫自動車道というのもできますが、高速道路は有料で、無料のバイパスは信号や郊外店が多く流れが悪いために、実は信号の少ない旧街道の方が目的地へは早いというケースが比較的多く見られ、それはいわゆる「抜け道」「裏道」という使い方ですが、この道路自体が府道に指定されて地図にもルートが明示されているのですから、狭くて自動車の通行に適しない生活道路の外観を持ちながら、同時に堂々と通過することが推奨され、そのため自動車の相互通行を妨げるような物理的なバリアを置くことができないのが現在の道路行政であることになります。

 

 道路行政の在り方に関しては、裏道を建設することで一方通行化が容易であることを「中身チラ見せ」の中で示しているほか(008-7 古い街並みを残す方法 )、高速道路も国道の体系に包含しつつ、旧街道も含めたルートを階層化する政策案を「新発明?」の中で提言していますが(011-4 国道と高速道路の数字の体系を見直す)、そうすれば旧街道も国道のまま階層化された利用形態に合わせた道路構造に改造していくことも可能でした。
 現在の道路行政では、旧街道を国道や県道に指定してから道路の拡幅やバイパス建設などの「改良」を加えて行くことになるため、バイパスが整備されると旧街道が寂れると考えて県道のまま残したいという意見が多いようで、そのため旧街道の交通規制は行われない場合が多いのですが、1960年代のイギリスではすでにそうした考えを否定し、長距離交通流を賄う基幹的なネットワークを都市交通とは別に整備することと、旧道に関しては交通規制が必要で、そのために顧客を失うことを恐れる商人たちの心配は重大ではないとして(本書 p226)、それがイギリスが街並みと田園の美しさと快適さを今日まで保ったターニングポイントであったようです。

 

 結論めいたことを言えば、まず丹波路の自動車交通を賄う道路を街道とは別に建設することが必要で、それはバイパスでも高速道路でもよいけれども、信号や郊外店のできない構造にすることで、一本あれば相当の交通流が維持できていたはずです。
 同時に、住宅の多い旧街道は交通規制が必要で、交通規制と生活の利便を保つには裏道の建設が安上がりで確実に効果があり、普段の生活や登下校の安全も、街並みや商業活動の維持も、比較的容易であったと考えられます。

 

観光庁に期待される「役割」  2012/4/22

 

「東北博の外国語HP、観光庁が一時閉鎖 誤訳相次ぎ」

 東北観光博覧会の公式ホームページ(HP)に外国語訳の誤りが多数見つかったため、博覧会実行委事務局の観光庁は13日、英語など4言語のHPを同日から今月下旬まで一時閉鎖すると発表した。閉鎖せずに修正をしてきたが、誤りが多く、断念した。日本語のHPはそのまま続ける。
 同庁によると、秋田を「飽きた」と誤るなど、誤訳はすべての外国語で見つかっている。数は把握できないという。担当者は「自動翻訳機の辞書機能に固有名詞を登録するなど改善を図っていきたい」と話す。
 ナマハゲ体験講座を「はげ頭病の講座を体験する現場」と中国語訳された男鹿市は「間違った内容が発信されるのは一番まずい。正しく直して一刻も早く再開してほしい」と話す。
(2012年4月14日8時6分)

http://www.asahi.com/digital/internet/TKY201204130582.html

 

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京都駅前
京都駅前

 実は、このブログの記事(第3コラム:044-5 駅の表示の国際化)と関連して、役所がイベントの音頭をとったり差配したりするような役割とは異なる役割を、以前から観光庁に期待していました。

 というのも、今回のHPで英語でのサイトを構成したということは、当然海外からの訪問者を積極的に誘致しようとしていることになり、そうなると観光客を受け入れる現場で案内板を拵えようとした場合も、同じように英語の表示が必要になることもあると考えられます。同じことは、観光庁が絡んだイベントに限らず、あらゆる観光地の現場で必要とされる可能性があり、そうした場合にわざわざ語学の専門家や専門技量を持ったスタッフに依らずに英語版の案内が作れるように、もし観光庁が支援するシステムが出来れば、役所の果たすべき役割としては非常に好ましいものとして現場で観光に携わる人々に感謝されることになると考えています。

京都 醍醐
京都 醍醐

 具体的には、観光地などでよく使う案内や注意書きの文言を募集して、それに対してネイティヴスピーカーを含んだ専門スタッフで対訳を作成して(翻訳作業自体は専門業者に丸投げしても構わないはずです)、出来あがった対訳表を観光庁のサイトで検索出来るようにするというもので、そうすれば現場の人々が辞書と首っ引きで英訳するよりも確実に旅行者に伝わる英文になるはずですし、「立ち小便禁止」「マムシに注意」といった手書きの注意書きにも英語が併記されるようなことになれば、外国からの旅行者の印象もまた違ったものになりそうです。
 何よりも外国から来た旅行者が情報過疎に陥って、無用な不便を強いられたり、無用な危険に曝されたりということが減ることになりますから、外国人が特に美しいと感じる日本の田舎に観光客をいざなう上でも、価値のある仕事になると考えています。

 

 割合よく使う、研究社の辞書サイトの場合は、様々なタイプの辞書や、さまざまな訳文の対応を自動的に検索してデータベースを増やしているようで、同様に観光庁の対訳のサイトが使いやすくなれば、訳してほしい例文を送ってくる利用者も増えて、さらに内容が充実したデータベースになるという流れを想像しています。

 

「ディーゼルンエンジンで後れを取る」(J-CASTニュース:2012/4/1/10:00)   2012/4/7

 

 この記事自体は、欧州向けの売り込みを重視してきたマツダのプロモーションとリンクしたもののようですが、これまで業界の事情を知る術がなかった迂闊は置いて、言われてみれば確かにそういうこともあるなと合点した記事でした。

http://www.j-cast.com/2012/04/01126649.html?p=all

原油からの各成分の抽出割合
原油からの各成分の抽出割合

 欧州では、日本に比べて軽油の税制上のメリットが小さいにも関わらず、ディーゼルエンジンの乗用車が多いことは学生の頃から知っていましたが、その理由はよくわからないままでした。
 
 確かに、欧州の交通政策で言えば、まず日本の倍程度の燃料税があり、道路政策では日本のように市街地を通り抜ける幹線道路はなく、無料か非常に低額な高速道路が縦横に完備されていますから、ディーゼルのように騒音や排ガスが大きい自動車の走行が一般の住民に与える影響は日本に比べればはるかに小さく、そうした社会の具体的な構築は本書の中心的な課題にもなっています。

 

 ただ、日本のまちづくりや交通政策の状況がそういうものであったために、自動車会社と石油会社に要求される技術がややガラパゴス化した可能性があり、今後の業界の競争力に影響を与える可能性もあります。

 

 日本の消費者価格を1リットルあたり125円とした際の原価が65円ほどなのに対して、イギリスやオランダのガソリンの実勢価格から原価を計算すると55円(1ユーロ=148円として)ほどになるようで、これはイギリスやオランダがBPやシェルといった石油メジャーを抱えるために安く輸入していると思いきや、今日では石油メジャーは世界の確認埋蔵量の3パーセントを保有するに過ぎないもっぱら原油を供給される側であるそうで、実は、近年の日本の場合は原油の輸入量に対してガソリンの消費量の割合が高すぎて、普通に分溜した成分だけでは足りず、軽油などの他の成分の一部を消費し、軽油に水素を付加して熱量の高いガソリン成分を精製する工程が必要であるために原価が割高になると言われます。
 実際に、1978年(昭和53年)から2003年までの25年間で、原油の輸入量自体は2.7億キロリットルから、2.44億キロリットルと減少したのに対して、ガソリンの販売量は0.34億キロリットルから0.61億キロリットルと大幅な伸びを示し、原油からガソリンや軽油を精製する割合である「生産得率」は、ガソリンが13.64%から24.74%に、軽油が8.10%から16.28%と、いずれも2倍前後まで増加しています。つまり、他の産業部門で省エネやエネルギー転換が進み、原油の輸入を抑制してきた一方で、自動車に消費される割合ばかりが2割程度から4割にまで拡大したわけですから、税率の引き上げで消費量がある程度抑制されれば、精製コストはむしろ削減されて原価が下がることが期待されます。(本書 p160)

 

 つまりこうした事情を踏まえると、欧州でディーゼルの乗用車が普及している背景にあるものは、それほど高品質ではない(少し安目の)原油から比較的多く精製される軽油に変成工程を施さずにそのまま利用するためのバランスを考えた政策であると見ることができます。

 

 学生の頃、友人が伯父さんのメルセデスSD(一番大きなSクラスのディーゼル版)に乗せてもらった際に、「停止するとアイドリングの振動を感じるけれど走り出すと気にならなくなり、おまけにSクラスなのに燃費が14kmほどにもなるそうだ」と言っていたのを聞いて、そのバランスの設定には驚かされたのですが、それが多くの人に受け入れられるためには、市街地の走行が少なく、急な加減速が少なく、ゆったりと高速で専用道を巡航する機会の多いような環境が必要なわけですから、ディーゼル乗用車の普及が増えるかどうかにかかわらず、ディーゼル乗用車の選択が可能になる程度まで、道路の環境が改善されれば、それは大型貨物での輸送にとっても、周辺住民の住環境にとっても、全体的なエネルギー効率にとっても望ましい方向であることになります。

 

<自転車>歩道走行禁止、厳格運用…警視庁が安全対策策定へ

(10月19日(水)2時37分:毎日新聞)   2011/10/20

 

 警視庁は、自転車の車道左側走行の原則を順守させ、これまで積極的に摘発していなかった歩道走行の取り締まりを徹底する方針を固めた。そのうえで自転車のルール順守や走行環境の整備なども盛り込み、全国の警察本部で初となる包括的な自転車安全対策の策定作業に入った。東日本大震災以降、通勤・通学に自転車を利用する人が増え、交通事故全体に占める自転車事故の割合も増加。警視庁は「マナーを守れば防げる事故は多い」と意識向上による事故減を目指す。【伊澤拓也】

 

 ◇震災後に事故急増
・警視庁は自転車ブームが高まった数年前から摘発強化に乗り出している。昨年の取り締まり件数は信号無視が300件(前年比189件増)、ブレーキのない競技用自転車「ピスト」など制動装置不良が661件(同659件増)に上り、今年はさらに昨年を上回るペースだという。
・一方、歩道での高速走行や一時停止違反の摘発はほとんどなく、警視庁幹部は「黙認と受け取られても仕方がない側面もあった」と話す。
・今後は道路交通法の規定通り、子供や高齢者らを除き車道の左側を走るよう促し、走行可能な歩道を走る場合も安全徹底を求める方針とみられる。
・東京都内で昨年起きた歩行者と自転車の事故は1039件で全国の約4割に上り、今年8月までの事故全体に占める自転車関連事故の割合は37.8%で過去最高を更新する勢いだ。
・今年3月の震災以降の半年間の通勤・通学中の事故も、前年同期より5%(96件)増えている。警視庁は「このままではさらに事故が増える可能性が高い」とみている。
・研究者によると、自転車事故の7割は交差点で起き、歩道走行が主要因。昨年2月には渋谷区で歩行中の女性(当時69歳)がピストにはねられて死亡する事故も起きている。
・60年に制定された道交法は自転車の歩道走行を禁じたが、車道事故が増え、70年には標識のある歩道に限って走れるよう改正。歩行者との接触事故が目立つようになると78年の再改正で、走行可能な歩道での徐行や歩行者の前での一時停止を義務付けた。
・警視庁幹部は「道交法の基本に立ち返って歩行者との事故を減らし、車道でのルールを守った走行を訴えたい」と、安全対策の効果に期待する。
・また、警視庁は都と連携し、車道の左側を線で区切る自転車レーンのほか、路面を色分けして自転車と歩行者の通行部分を明示した歩道の整備を進める。現在は自転車レーンが13カ所9キロ、カラー舗装歩道が40カ所37キロにとどまるが、3年以内に計10カ所31キロを新設する方針を決めている。

(http://mainichi.jp/select/today/news/20111019k0000m040191000c.html)

 

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自転車に乗っていて遭遇する場面(p119)
自転車に乗っていて遭遇する場面(p119)

 はじめこのニュースの見出しを目にした時には、「警察庁」の方針かと思ったため、日本の交通行政もここまで愚劣になったものかと驚きましたが、内容を読むと、はっきりしているのは、警視庁から歩道を高速で走行するようなマナー違反を黙認せずに摘発するということを聞き出したことで、あとは相互の因果関係をまったく無視していろんな情報を綯い交ぜにしただけのお粗末な記事でした。

 

 仮にこの記事の通りの政策を進めた場合、おそらく二桁の死者、三桁の負傷者を増やして早晩見直しを余儀なくされることになるでしょうし、実際には、中学生が車道の左側を走っていれば、多くのクルマにクラクションを鳴らされるのがオチですから、警視庁も都民もこの方策を是認するとは思われず、この記事は警察の発表というよりは、メディアによる一種のキャンペーンであり、交通行政に関してはこのように警察もメディアも、やや不誠実に市民をミスリードしようとする姿勢が気になります。
 
 たとえば、写真に示したように、自転車レーンを設けてお金をかけて色を塗ってあったとしても、ポールなどの物理的障壁や荷捌きのためのレーンがない限りは自転車の利用者を死の危険に晒すだけですから、こうした現状に対する具体的な方策を講じることが警察の役割になるはずです。

 

追記   2012/10/21

 この不思議なニュースに関する社会の反応を探ってみたところ、論じているのは2chなどの系統ばかりですが、一般には「痛いニュース」と看做されていることが分かりました。(http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1671129.html)

 今のところ報じているのは一社のみで影響は限定的ですが、多くの人がこのニュースを真に受けて警察に対する不信感が高まっているようなので、警察も少し気の毒な気がします。

 

住宅街の交通事故防げ!=歩行者、自転車の優先地帯-警察庁  2011/6/15


 住宅街での運転は慎重に-。警察庁は、住宅街での交通事故を防ぐため、車の最高速度を時速30キロに制限する歩行者・自転車優先地帯を全国に設置することを決めた。スピードを出しにくい環境をつくって幹線道路の抜け道として使われるのを防ぎ、事故抑止につなげる。
 同庁によると、全国の交通死亡事故は1992年以降、減少傾向にあるが、歩行者と自転車の事故は減少ペースが鈍い。2000年からの10年間で全体の交通事故死者数が46.3%減少する中、歩行者と自転車乗車中の事故死者数は、それぞれ32.5%減と33.1%減にとどまっているのが現状だ。
 同庁は、歩行者と自転車の事故を防ぐには、住宅街での対策強化が必要と判断。「生活道路が幹線道路からの抜け道として使われることも多い」(同庁幹部)といい、最高速度を時速30キロに制限することにした。
 優先地帯は、車同士がすれ違いにくくなるように工夫を凝らす。中央線を消して1車線とするほか、歩道を拡大して車道を狭くするなどして、慎重な運転を促し、交通量の抑制も狙う。(2011/06/14-05:19時事)

 

 交通行政に関しては警察庁も交通工学の学者も、愚鈍と言えるほど消極的な施策しか実施出来ないという不思議な現実があり、ときどき欧州で常識になっている施策を、さも新発見のように学者が提言するという流れが定着していますが、それでも長期的には自著で述べたような「技術」は着実に普及していくと考えられます。

 

「だんご3兄弟」速水さん事故=78歳女性はね死亡-埼玉県警   2011/7/17

 

 歌手の速水けんたろう(本名谷本敦雄)さん(49)が乗用車を運転中に歩いていた女性をはね、女性が死亡していたことが17日、埼玉県警川越署への取材で分かった。

 同署によると、16日午後1時15分ごろ、同県川越市通町の信号のある市道交差点で、速水さん運転の乗用車が右折しようとした際、青信号で横断歩道を渡っていた近くに住む無職大久保幸子さん(78)をはねた。大久保さんは胸などを強く打ち、病院に運ばれたが、約12時間後に死亡した。

 速水さんは「助手席に置いていた荷物に気を取られていた」と話しているという。 速水さんはNHK「おかあさんといっしょ」の「うたのお兄さん」として活躍。「だんご3兄弟」が大ヒットした。(2011/07/17-21:17時事)

 

 自身の市街地内全面一方通行化のモデル的な町として、川越の町はよく歩きましたし、クルマで訪れてみたりもしました。
 事故があった西武本川越駅に近い繁華でかつ閑静な地域は、こういう町の道路事情を向上できたら、本当に暮らしやすい街になるだろうと考えていました。

 

 拙著の一方通行化の提言では、効率上は問題はなく、警察などと意見が分かれそうな安全上のポイントに関しても、最も重要な交差点での事故に関して、以下のような論理を展開しています。

 

 ここで、信号機に依らずに渡ることへの抵抗感、自分の命を運転者の意志や判断に委ねることへの不安もあると思われますが、同じ状況は、一般の信号機のある交差点で日々経験していることで、右左折のクルマは、横断歩道を目視で確認してくれるから、歩行者は轢かれずに渡ることができるのであり、どちらかは横断者の背後から近づいてくるわけですから、運転者の注意力に命を委ねていることには変わりなく、実際に運転者の単純な不注意による犠牲者も後を絶ちません。これに対して、直進で近づいてくるクルマに関しては、速度と距離から到達時間を予測することは容易で、不安な人は手を挙げてクルマが停まってくれるのを待ってから渡り始めることもできます。

 大きな交差点での歩行者の安全の確保の方法については後述しますが、現状の日本の交差点では、必ずしも安全だともいえない信号機のある横断歩道に比べれば、全面的に一方通行システムを採用して、手を挙げて渡れるシステムにした方が安全な場合が多いと言えます。(本書 p85)

 

 結局、現行のタイプの交差点で、懸念した通りの事故が起こってしまいました。
 加害者が芸能人であるだけに詳細な検証がなされて、現行の街路の危険性が周知されるようになればよいのですが…

 

右折信号のUターンOK=渋滞緩和、事故抑制に期待-警察庁  2011/7/15


 警察庁は14日、赤信号の交差点で右折ができる矢印信号で、禁止表示がある場所を除きUターンもできるようにすると決めた。これまでUターンは青信号の時だけ認められていたが、渋滞緩和と事故抑制につなげるため道交法施行規則を改正し、来年4月1日から施行する。
 右方向の矢印が表示される矢印信号は、交通量が多く、右折専用レーンがある幹線道路の交差点などに設置されている。赤信号の際に点灯させて対向車の直進を禁止し、車をスムーズに右折させる効果がある。
 矢印信号点灯時に右折レーンの先頭車がUターンしようとする場合、後続車両が渋滞することがあったが、今回の改正で解消する。同庁は「対向車が来ない状態でUターンできるため、事故抑制にもつながる」とみている。(2011/07/14-10:41時事)

 

 暇つぶしにだらだらと街を流して走るときには、なるべくUターンがないようにするものですが、それに対して実際に用があって車で向かう場合は、目的地の近くでUターンする「需要」は多いはずです。

 もちろん、郊外のショッピングセンターのように大きな駐車場があれば、Uターンに気を使う必要はないのに対して、町中に目的地がある場合は、危険を冒してUターンを試みるか、遠回りをして帰るかという選択になり、こうした事情が既成市街地の相対的競争力の低下にもつながります。

 

 安全にUターンできる街路としては、拙著で述べた全面的な一方通行化(拙著P67)のほかに、一方通行システムの一形態としてのロータリー交差点(本書 P86)、それから広い街路であれば、中央分離帯の駐車場化なども効果的だと思います。

 

「生活道路」最高30キロに=交通安全計画を決定-政府  2011/3/31


 政府の中央交通安全対策会議(会長・菅直人首相)は31日付で、2011~15年度の第9次交通安全基本計画を決めた。車道の幅が5.5メートル未満の「生活道路」で歩行者や自転車との事故発生の割合が諸外国と比べて高いことを重視し、生活道路で自動車の最高速度を原則時速30キロにすることや、路側帯の整備を進めることなどを盛り込んだ。
 また、10年に5745人だった交通事故死者数(事故発生から30日以内)を、15年までに3500人以下とする目標を掲げた。実現すれば、人口10万人当たりの死者数は世界最少の2.8人となる。(2011/03/31-06:28時事)

 

 政府の方針として、いわゆる生活道路の速度制限を、原則として時速30kmにすると決定したそうですが、 自著では、地方都市の市街地内では、幹線道路も、全面的な一方通行化と時速30km制限が有効で、 それによって交通容量はむしろ増えること、商業地などでの「生活」の質が向上することを示しています。

 いわゆる「生活道路」に関しては、擬似的なクルドサック化による、通過交通の排除が有効です。 (第三章 街路をつくる:p64)